農林水産省のホームページに、「お茶のページ」というお茶に特化したページがあるのをご存知ですか?どんな情報があるのか、下記にざっくりご紹介。
・農林水産省公式の日本茶に関するYouTubeチャンネル
・お茶を含めた国産食材を扱う小売店やレストランを紹介する、農林水産省のオフィシャル
サイト「Taste of Japan」
・お茶の淹れ方マニュアル
・お茶の健康機能性を紹介する小冊子
・お茶に関する補助金等の情報
このような、お茶に関する様々な情報をまとめて紹介しているページです。
この「お茶のページ」の中から、今回、当サイトがご紹介したいのは、今月(令和5年2月)公開された「茶をめぐる情勢」です。
「茶をめぐる情勢」は毎年更新されており、その名の通り、お茶の現状や、流れや動きをまとめた資料です。
具体的には、お茶の生産量や消費量の動向、茶産地の現状や輸出入の動向、それに対して農林水産省ではどんな対策をしているか・・・などなど。様々なお茶に関することがらが簡潔にまとめられています。
とはいえ、全体版は34ページにも及ぶので、気合を入れない読めない・・・というわけで、「茶をめぐる情勢」から抜粋したいくつかの内容をここでご紹介したいと思います。
栽培面積、生産量ともに、減少傾向・・・。グラフで見るとゆるやかなように見えますが、平成18年(2006年)から令和4年(2022年)までの17年間で、生産量は17%の減。栽培面積は25%の減。
生産量においては、前年比でプラスになっている年もありますが、17年間を平均すると毎年マイナス0.94万トンというスピードで減少していることになります。
また、このままのパーセンテージで減少を続けると仮定して単純計算をすると、17年後には6.1万トン。40年後には、令和4年(2022年)の7.7万トンの約半分、3.86万トンにまで減少することになります。
生産量と栽培面積は減少傾向。
では、お茶の価格はどのように推移しているのか?
お茶の価格も、一番茶・二番茶・三番茶(※1)とも、価格が低迷しています。
特に令和2年(2020年)は新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、平成元年以降の最安値を更新。最も高値で取引される「一番茶の玉露」が、前年比マイナス43%(4928円→2,828円)となるなど大幅に下落しました。
翌年、令和3年(2021年)のお茶の価格は、令和2年と⽐較するとかなり回復しています。
農林水産省では、「在庫の解消が進んだことなどによるもの」と分析しています。
ちなみに、「お茶の価格」は茶飲料(ペットボトルのお茶など)の需要の伸びに呼応する形で平成16年(2004年)までは上昇傾向にありました。その後、需要の停滞により低下傾向に転じ、平成16年にキロ3,000円だった一番茶の価格は、平成30年(2018年)には2,000円を下回り、コロナ禍の影響から回復した令和3年(2021年)でもキロ2,021円程度に留まっています。
※1:一番茶・二番茶・三番茶とは?
一番茶・・・その年の、一番初めに摘み取った新芽で作った茶。うま味、甘味の成分であるアミノ酸が豊富。
二番茶・・・その年、2回目に出てきた新芽で作った茶。一般的に6月下旬~7月中旬にかけて生産する。
二番茶以降は一番茶に比べ、うま味成分のテアニンが少なく、苦渋み成分のカテキンの含有量が
多い傾向にある。
三番茶・・・二番茶を摘み取った後に出た新芽で製造した茶。7~8月上旬に摘採される。一般的には、その
ままお茶として飲まれる事は少なく、玄米茶など安価なお茶に混ぜることが多い。
平成18年(2006年)から令和4年(2022年)の、茶飲料(ペットボトルのお茶など)と緑茶(リーフ茶)の1世帯当たりの年間⽀出⾦額の合計は、概ね11,000円程度で横ばいとなっています。
しかし、下のグラフからもわかるように、緑茶飲料の消費が増加傾向にあるのに対し、リーフ茶の消費は減少傾向。
平成18年(2006年)には同程度の支出金額でしたが、平成19年(2007年)には、茶飲料の消費⽀出額が緑茶の消費⽀出額を上回り、以降、年々その差は広がっています。
上の「3、お茶の消費量」で記載した通り、近年の、1世帯あたりのお茶に関する支出額は横ばいなのに、「2、お茶の価格動向」で記載した通り、お茶の価格は低迷している。
「消費金額が変わらない=需要が変わらない」とも言えるハズ。それなのに、お茶の取引価格がどんどん下がっているのは、いったいなぜなのか?
その大きな要因は、「リーフ茶を飲む人の減少と、ペットボトル茶の普及」です。
当初はペットボトルなどのお茶飲料の原料には、主に二番茶が使用されてきました。
ところが、リーフ茶に使用される一番茶の需要が減ったことで、一番茶が余り、ペットボトルなどのお茶飲料に使用されるようになった例も多いようです。そのため、最も単価の高い一番茶のお茶価格が大幅に下落し、全体のお茶価格を引き下げた、というのが要因の1つであると考えられます。
もちろん、「ペットボトル茶が悪」と言っている訳ではありません。
むしろ、現在の日本の茶業界を牽引しているのは、ペットボトルなどの茶飲料であるとも言う事ができますし、茶飲料のお陰で、リーフ茶を飲む機会の少ない若い世代も、日本茶を飲む、そして日本茶を好むことが、普通になったのだと思います。飲料業界や茶生産者等の努力により、高品質なお茶を、手軽かつ安価に飲むことができるようにもなりました。
しかし、今も昔も、茶生産者の収入の中心は、単価の高い一番茶です。
一番茶の価格が下がれば、茶生産者は生活することが出来なくなってしまうというのも、また、現状です。
暗い話にばかりなってしまいましたが、明るい話もあります。
下記は、「新型コロナウイルス感染症拡⼤の前後での茶葉から淹れた緑茶の飲⽤頻度の変化」のアンケートをグラフ化したものです。
注目したいのは、18歳~29歳の26%が「増えた」と回答していることです。
増加の理由としては、在宅時間の増加や、茶の健康機能性に魅⼒を感じた等の理由が挙げられています。
また、前述した通り、ペットボトル茶を飲むことが日常化していたからこそ、リーフ茶にも興味を持つようになったのかもしれません。
明るいお話をもう1つ。
下記のグラフは、世界へのお茶の輸出実績の推移です。
令和4年(2022年)の緑茶の輸出額は219億円で過去最⾼額となりました。
健康志向や⽇本食への関⼼の⾼まり等を背景に、特に、抹茶を含む粉末茶の需要が拡⼤してお
り、平成18年(2006年)からの17年間で、輸出額は約7倍に!
また、「緑茶の輸出価格」も右肩上がりとなっています。
日本茶生産の現場は今まで記載してきた他にも、生産者の高齢化や新規就農者の減少、原油価格や化学肥料原料の輸⼊価格の高騰によるコストの増加・・・etc、たくさんの問題があり、厳しい状況に置かれていることは確かです。
しかし、5・6で記載した、若年層が日本茶に興味を示している、海外での日本茶需要が拡大していることなど、たとえ僅かでも、光明も差していることはとても心強いことです。
また、農林水産省をはじめとした国や、茶生産地を持つ各自治体、生産者団体などの茶業関係者が、この厳しい現状を前に、ただただ手をこまねいている訳ではありません。
農林水産省が、この「茶をめぐる情勢」を編纂し公開していることもそうですし、自然災害等のリスクに備えるための保険加入の推進、AIなど先端技術を使ったスマート農業の推進、⽶国での消費拡⼤を狙ったSNS等でのPR、輸出を考えている茶生産者向けのセミナーの開催、輸出を見据えた有機転換や有機JASの取得、若年層や海外向けの新しい商品の開発 などなど・・・
この状況を打開するために、また、新しい需要や生活様式に合わせて、様々な人がそれぞれの立場から、多様な取り組みを行っています。
お茶は国の輸出重点品目(海外で評価される日本の強みがあり、輸出拡大の余地が大きい品目)に指定されていることもあってか、お茶に関する補助金も多くあります。
以前、ご紹介させていただいた、また、当サイト運営者であるエコバイ株式会社も関わらせていただいた、JA高千穂地区の「高千穂開運茶開発」の取り組みも、農林水産省の持続的生産強化対策事業という補助金を使用させていただき実施したものです(「茶をめぐる情勢」の18ページに、「産地の特⾊を活かした⽣産・流通・消費が連携したモデル的な取組」として、JA高千穂地区が紹介されています)。
このコラムで、少しでもお茶の現状に興味を持たれた方は、是非、「茶をめぐる情勢」の本編を覗いて見てください。
前述した通り、ページ数が多いためハードルが高く感じますが、各項目の下に農林水産省による分析結果の概要が記載してあるので、これと、その下に掲載されているグラフを見れば、一目でお茶の現状がわかるつくりになっています。
また、お茶の現状に想いを馳せながら、日本茶を飲んでいただけたら幸いです。
急須で淹れたリーフ茶でも、ティーバックで淹れたお茶でも、ペットボトルや紙パックのお茶でも、何でも構いません。
きっと、『この日本茶がなくなってしまうのは嫌だなあ』と感じていただけると思います。
※茶をめぐる情勢(令和5年2月時点)(全体版)(PDF : 4,099KB)
(分割版:本体1(PDF : 1,931KB)、本体2(PDF : 1,134KB)、本体3(PDF : 1,181KB)、
参考資料(PDF : 881KB))