以前のブログ、【お茶の豆知識】 お正月には縁起のいい「大福茶」を飲もう や、
【お茶の豆知識】 節分には無病息災を願って「福茶」を飲もう で、お茶は古くから縁起物として飲まれてきた歴史があることを紹介させていただきました。
また、【お茶の豆知識】なぜ、“香典返し”にはお茶が選ばれるのか? というコラムでは、香典返しにお茶がつかわれるのは「境界を区切る」という意味があるから、というお話をさせていただきました。
古来より、日本人の「節目」と「お茶」は深く関わってきたようです。
そんなわけで、今回も節目シリーズです!
お正月や節分は、年や季節の節目。
人生の節目は個人によると思いますが、多くの方にとって大きな節目であろうと思われるのが、「結婚」だと思います。
みなさま、「結納茶」をご存知ですか?
九州地方では、結納品として必ずお茶を用意する文化があるそうです(主に、長崎県、佐賀県、福岡県、熊本県、鹿児島県の一部)。
昨今、全国的に結納や結婚式を省略される方も多いので、古くからのしきたりに従って結納を行っていらっしゃる方は少数派かもしれませんが、現在でも昔ながら豪華な結納茶の他、現代に合わせたコンパクトな結納茶が販売されています。
九州地方の結納とは?また、結納茶とは?
もともとはどのようなものだったのか?
少し説明させていただきます。
結婚について男女の同意が得られると、結婚の話がまとまったことの証明として「くぎ茶」が交わされていたそうです(大分県の一部では「釘茶/くぎちゃ」、福岡県では「久喜茶(くきちゃ)」とも呼ばれる。何度も出ないように・・・と番茶が使用される)。
その後は、仲人を介して結納品を取り交わし、結婚式の話など詳細を詰めていく・・・という順番で進んでいきます。
この結納品のメインとして、「茶筒に詰めたお茶を福俵のように何段か重ねたもの」が用意され、結納品の中心に置かれます。他には、酒や鯛などが、鶴と亀の縁起の良い飾りとともにセットされます。
結納と結婚式が終わると、新婦は嫁ぎ先のご近所に挨拶まわりを行います。
その際、のし袋に少量のお茶の葉を入れ、裏側に新婦の名前を書き入れたものが配られます。
結納から結婚式までの流れは、上記のような感じです。
諸説あるようですが、
●茶樹が移植できないこと(茶の樹は若い時に一度だけ移植され、二つの根が一つに固まった後はもう移植しない)
●茶樹の根は地中深く広く張る、強い樹であること。年中、葉が緑色で枯れ落ちることがなく、長生きする樹であること
●お茶の渋で染物をすると大変よく染まること
●茶の木の芽は摘んでも摘んでも、何度でも芽が出るので「お芽出たい」ということで縁起が良いこと
などと言われています。
つまり、
●夫婦仲良く長寿で、別れることなく
●嫁いだ家にしっかり根を下ろし
●その家にしっかり染まること
という縁起を担いでいるようです。
ちなみに、結納茶に番茶が用いられるのも、
●番茶は出が悪いため一回だけしか出ない=嫁は一回だけ実家を出る
●番茶は出が悪いため一回だけしか出ない=一度嫁いだら出て行かない
という縁起を担いているのだとか。
昔からのしきたりなので、「嫁!!」が前面に出ている部分が、現代の考え方には馴染まないかもしれませんが、
『夫婦とも長寿で、新居を構えた地域にしっかり根を張り、安定した家庭を築くこと。1回結婚したら別れず、夫婦仲良く暮らすこと』
と少し言い換えれば、現代にも十分に通じるめでたい習わしです。
結婚にまつわる茶の習わしは、九州だけでなく、中国の福建省、広東省、湖南省、チベット自治区などにもあるようです。
宋の時代(960~1279年)の記録によると、湖南省西南の山間地に「無射山」という山があり、山頂には茶の老木が生繁っていたとのこと。
この地に住む人々は、そのお茶の樹をとても大切にしており、おめでたいことがあると村中の人が山頂に登り、お祝いをしていました。
また、その村の娘が嫁に行くときには必ず、「娘が健康で一日も早くその家の一員になること」「出戻ることのないように」との願いを込めて、お茶を持たせていたといいます。
「無射山」が現在どの場所に当たるのか、わかっていないようですが、無射山の場所とされる場所の近くに「羅子山」という山があり、そこには「瑤族(ヤオぞく)」と呼ばれる少数民族が住んでおり、現在でも婚姻に関する儀式にはお茶が使われているとのこと。
瑤族は、お茶に深い関りを持つ民族とされており、また、山を伝って各地に移住する民族でもあります。福建省、広東省に移り住んだ瑤族が、その土地に婚姻とお茶にまつわる風習を伝えたのだそう。
日本茶にとって、中国はルーツとなる存在。そう考えると、かつて、中国から日本に渡った人が、または日本から中国に渡った人が、「結納茶」を伝えたのかもしれませんが、その関連性はわかっていないようです。
江戸時代、「お茶を濁す」「茶々を入れる」という言葉があることより、「結納や結婚式などの祝いの席にお茶を飲むのは縁起が悪い」という考えが広まりました。
その流れで、結婚式場などで出てくることの多い「桜茶(桜湯ともいう」は、お茶ではなくお湯に桜の花を浮かべたもの。「喜こぶ」にかけて、昆布茶が出されることもあります。
でも、今回、九州の「結納茶」について調べてみたら、“お茶と結婚”すごく相性がよいことがわかりました!
「お茶の樹のように夫婦仲良く丈夫で、住んだ土地にしっかり根を張り、茶の葉のような青々とした新芽をつける」
なんて、素敵!!
現在では、福々しい袋や、現代的でお洒落なパッケージに入ったお茶が数多く販売され、結婚式の引き出物としてお茶を配られる方も増えているのだとか。
以前のコラム【お茶の豆知識】なぜ、“香典返し”にはお茶が選ばれるのか?と対極のことを書いているように思われるかもしれませんが、「贈る相手のことを考え、軽くて持ち運び易いものを、また好き嫌いが分かれる可能性の少ないものを」「今までの世界と新しい世界との区切りとして(結婚式でいうと、結婚前と結婚後2つの生活の区切り)」、同じ意味合いでお茶が贈られているのだと思います。
※参考文献:「日本名茶紀行」松下智 著(雄山閣出版株式会社)