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Tea Information From 日本茶BANK

2023.03.31 Update

【お茶の基礎知識】玉露・八女伝統本玉露・GI制度

2022年、緑茶輸出額が過去最高を記録!

前回のコラムで、世界的な健康志向の高まりや、⽇本食ブームなどを背景に、2022年度の緑茶輸出額が過去最高を記録したことに触れました。

サンフランシスコやシリコンバレーでは、福利厚生の一環として緑茶を社員に無償提供する企業が増加しており、デスクに日本茶が並んでいる光景も珍しくないといいます。

無糖でヘルシー、さらに、朝飲むと適度な渋みとカフェインで気分がシャキッとするということから、「緑茶はスーパーフード系のエナジードリンク」という捉え方をするビジネスマンも多いようです。

日本でおなじみの「お~いお茶」を、「海外で見たことがある!買ったことがある!」という方も多くいらっしゃるのではないでしょうか?伊藤園さんの「お~いお茶」は、現在、世界30カ国以上で販売されており、その売り上げは、なんと!年間400億円にものぼるそう!!

2023年1月23日から、日本・上海・台湾・韓国で販売されている「お~いお茶」
伊藤園HPより

日本茶の知名度UP、そして偽物の横行・・・

「抹茶」が、そのまま「MATCHA」として海外で通じる言葉となっているように、日本茶の知名度も格段にUPしています。

しかし、知名度とブランド力が上がれば、「偽物」が現れるのも世の常・・・。

残念ながら、海外では、日本産の茶葉でないものが「Japanese Green Tea」と表示され市販されていたり、外国産の茶葉を単に粉末にしたものが「MATCHA」として流通していたりと、偽物が横行しているのが現状です。

お茶以外にも言えることですが、偽物が出回ると、ブランドイメージや信用が低下します。
また、消費者が安価な偽物の方に流れてしまうことで売り上げが低下し、偽物の価格を気にして正規品の値段を下げて売らなければならないという、おかしな状況を生んでしまうこともあります。

偽物を取り締まり、産地を守る「GI制度」

このような偽物を取り締まり、生産地や生産物を守るため、「GI制度(地理的表示保護制度)」というものがあります。

ヨーロッパの国々が、自国産の高品質なワインやチーズを守るため、「生産者の利益を守り、ホンモノの名称の保護する」という目的で作ったのがGI制度です。今では世界100ヵ国以上で導入されており、日本では2015年に導入されました。

下記は、農林水産省のHPから抜粋した、「GI制度」に対する説明です↓↓↓
 地域には長年培われた特別の生産方法や気候・風土・土壌などの生産地の特性により、高い
 品質 や評価を獲得するに至った産品が多く存在します。これらの産品のうち、品質や社会
 的評価など確立した特性が産地と結び付いている産品について、その名称を知的財産として
 保護する制度が「地理的表示(GI:Geographical Indication)保護制度」です。

2015年に施工された地理的表示法という、『特定農林水産物等の名称の保護に関する法律』に基づいて運用されている制度で、2023年1月31日(火)時点で121のGI産品が登録されているのですが、まだご存知ない方も多いかもしれません。ちなみに、GI産品には、こんなマークが付けられています。↓↓↓

「GIマーク」農林水産省HPより
GI登録121産品の一覧 農林水産省HPより

「夕張メロン」「神戸ビーフ」「下関ふく」「越前がに」など、誰もが知っている産品も登録されています。

GI産品はどのように守られる?神戸ビーフの例

では、具体的にGI登録した商品はどう守られているのか?
「神戸ビーフ」を例にご紹介したいと思います。

数年前、「神戸ビーフが海外で人気となり偽物が横行している」というニュースが報じられていたことを覚えていらっしゃる方は多いと思います。

輸出をしていないにも関わらず、海外では「神戸ビーフ」がなぜか流通していた、調査してみると全て偽物であったばかりか、「神戸ビーフ」の名称がいくつかの国で既に商標登録されていた、という内容のニュースです。

例えば、スペインのレストランではメニューに「TROPICAL KOBE BEEF」と表示し南米産牛肉が提供されており、ドイツのスーパーでは「Wagyu “Kobe-Style”」と表示された、ニュージーランド産牛肉が販売されていたそうです。

スペインのレストランで提供されていた「TROPICAL KOBE BEEF」
農林水産省HPより

そこで、国がEU当局へ、不正利用の停止を要請。EU当局はこの要請に応じ、事業者に対しての「神戸ビーフ」を連想させる名称の削除を指導し、偽物の流通を防ぐことができました。

他の模倣品同様、取り締まっても、取り締まっても、次々に偽物を販売する事業者が出て来る、“イタチごっこ”となってしまうことも多いでしょうが、日本国として相手国へ、名称の使用停止を要請してくれるというのは、とても心強いことですね。

GI登録されている日本茶「八女伝統本玉露」

さて、すっかり“牛”の話になってしまいましたので、本題の“茶” の話に戻します。
2023年1月31日(火)時点でGI登録されている、日本茶をご紹介したいと思います。

福岡県で生産されている「八女伝統本玉露」です。

「八女伝統本玉露」のお話をする前に、玉露について少し説明します。

そもそも、玉露とは?また、なぜ価格が高いのか?

玉露を栽培するには、まず、茶畑に棚を作ります。一番茶の新芽が伸び出した頃から、その棚を被覆資材で覆い、日光を遮断します。約20日、日光を遮断することで、養分が樹全体に万遍なくいきわたり、新芽がゆっくりと養分を蓄えながら育つため、テアニンなどの旨味成分が増え、タンニンなどの渋味成分は少なくなります。

被覆資材で覆われた玉露茶園 京都府HPより

約20日間の被覆後、新芽のみを、丁寧に摘んでいきます。高級な玉露の場合、一枚一枚、手作業で摘んでいきます。通常の玉露の場合、「機械摘み」されることも多いですが、傾斜地の場合は、効率の良い「乗用型摘採機」を使用することができず、「可搬型摘採機」が使用されます。「機械摘み」とはいえ、新芽はとても柔らかいので、繊細な動作が必要となります。

玉露の柔らかい新芽 八女伝統本玉露推進協議会HPより

お茶はもともと手間のかかる作物ですが、そこに玉露特有の工程が加わるため、玉露は高い値段で取引されているのです。また、玉露は新芽でつくられたお茶、すなわち「一番茶」のみを使用するため、一年で一度しか収穫できないことも、その希少価値を高めています。

主な産地は、京都府、福岡県、三重県。高値で取引されるものの、その栽培には、多大な作業量と高度な技術が要求されるため、産地や栽培量は年々減少しています。

「八女伝統本玉露」とは? その1:栽培地域

「八女伝統本玉露」は福岡県八女市及び周辺市町の中山間地域で栽培されています。前項でお伝えさせていただいた通り、玉露は日光を遮った状態で栽培されるものなので、もともと日射量の少ない山間の畑は玉露栽培にとても適しています。

また、山間地特有の気温差も、美味しい玉露をつくるための重要な要素となります。気温差が大きいほど、夜間の植物の呼吸が抑えられ、うま味成分であるアミノ酸などの養分が多く蓄えられるためです。

「八女伝統本玉露」の紹介動画
地理的表示産品情報発信サイトより

「八女伝統本玉露」とは? その2:「自然仕立て」と「手摘み」

一般的な玉露は、茶葉を摘む収穫面を半球状に整える「弧状(こじょう)仕立て」で栽培されていますが、「八女伝統本玉露」は、あえて茶樹の枝を剪定しない「自然仕立て」で栽培されます。

一番茶の収穫後に剪定した後は、茶樹にストレスを与えないよう自然の状態で芽を伸ばします。その間、自然の姿で太陽の光を受けた葉は、十分に光合成を行い、根っこを含む茶樹全体に多くの養分を蓄えます。この養分が、茶芽の一つ一つに送られるため、「自然仕立て」で栽培された葉は、鮮やかで艶のある緑色になります。

また、「弧状仕立て」は摘採機で効率的に多くの量を収穫できるのに対して、「自然仕立て」は、それぞれの枝がばらばらに上まで伸びているため、「手摘み」が必要になります。言うまでもなく、「手摘み」は「機械摘み」と比べ、膨大な時間と手間がかかりますが、「手摘み」することで、新芽の柔らかい部分のみを均等に収穫することができ、新芽の大きさも均一化されます。

自然の姿で太陽の光を受ける「自然仕立て」の玉露茶園
八女伝統本玉露推進協議会HPより

「八女伝統本玉露」とは? その3:「すまき」

一般的に玉露の被覆には、安価で長持ち、取り扱いもしやすい、化学繊維が使用されていますが、「八女伝統本玉露」は藁や葦等を粗く編んだ天然資材「すまき」を使用します。

そう、「八女伝統本玉露」には「被覆資材を調達し編む」という手間が加わるのです。
ただでさえ手間のかかる被覆に、なぜ天然素材を使用しているのか?
それは、藁は新芽の呼吸を感じ取り、温度や湿度を調整する役割を果たしてくれるから。

この地域は、稲作・麦作が盛んで、資材の原料となる「藁」の供給体制が整っており、かつ、天然資材の編み手や製造機械が残っているからこそ、伝統的な「すまき」を使用した被覆方法を守ることができるのです(藁をすまきに編む機械は、現在では全国どこを探してもなく、この地域にしか残っていないそうです)。

「すまき」で被覆された玉露茶園 八女伝統本玉露推進協議会HPより

「八女伝統本玉露」とは? その4:関連サイト

「八女伝統本玉露」について、詳しくは下記サイトをご覧ください。
地理的表示産品情報発信サイト
八女伝統本玉露推進協議会(八女伝統本玉露の公式サイト)
福岡県茶業振興推進協議会事務局

八女伝統本玉露推進協議会(八女伝統本玉露の公式サイト)には、以前、当サイトのコラムで紹介させていただいた栗原製茶さんのインタビュー記事が掲載されています。

品質が担保されている証「GIマーク」

ここまで、栽培地域・自然仕立て・手摘み・すまき、と「八女伝統本玉露」の主な特徴を記載してきましたが、「八女伝統本玉露」を名乗るためには他にも様々な条件があります。それらの条件や、その条件を満たすために必要な技術を、維持・管理しながら、栽培や製造されているのがGI産品なのです。

生産者側には、GI登録されたブランド名称の不正使用を国や行政が取り締まってくれるというメリットが、私たち消費者側には、「GIマーク」がある商品を買えば、安心で安全、品質が担保されているというメリットがあるということになります。

ちなみに、生産地域がGIに登録するためには、次のような手順を踏みます。
・産品が生産される地域の範囲を整理する
・産品がもつ品質などの特性を整理する
・特性に影響を与える地域の自然条件や、栽培や加工の方法を整理する
・上記の登録に必要な事柄(生産地域の範囲、その生産地域が持つ自然条件、生産方法、
 それによってできる産品の品質などの基準)を、産品を生産する方全員に提示し合意を
 得た上で、決定する
・産品の登録名称を決め、生産地や品質などの基準とともに、農林水産大臣に申請する

地域の生産者数が多ければ多いほど、また、各生産者さんの拘りが強ければ強いほど、
この「基準決め」が難航することが多いようです。GI登録ためには基準を細かく決める必要があるので、全員が納得するものをつくるのは難しいのです・・・。

このように「GI登録は一筋縄ではいかない」という側面もありますが、当社が茶産地に訪問する中で、「GI登録」に興味を持っていらっしゃる生産者さんともよくお会いします。
今後、多くの産地のお茶がGI産品として登録されるかもしれません。

食品売り場に行かれたら、是非、「GIマーク」の付いた産品を探してみてください。
現在登録されている121の産品たちは、それぞれ、愛情と拘りを持って生産され、長年その地域に根付き、大切にされ続けている食品たちです。

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